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産卵地固執性
        アカウミガメの産卵地固執性の形成過程に関する研究

     アカウミガメのメスは特定の砂浜に強く固執し、同じ砂浜に繰り返して上陸することが知られていますが、明確な基準は未だ解明されておりません。そのため学術調査研究として、アカウミガメのメスに衛星送信機を装着し、放流後の索餌回遊と産卵回帰の際の接岸過程を明らかにすることを目的とした試みを2012年から実施しています。
 送信機による衛星追跡は2013年12月以降、全てのALGOS受信が不能となったため受信を停止しました。
 2014年は2012年に送信機を装着した5個体の内、4個体が永田浜に回帰してきました。
 
       

      アカウミガメ回遊ルート(5個体)

 
各個体別の詳細な回遊ルート

各個体の愛称をクリックするとPDF形式で個体別の回遊ルートが表示されます。

ID108911 花子
(当館命名)
(2013.12.2ALGOS受信不能状態)

ID108910 桂姫
(勝浦うみがめ塾命名)
(2012.11.21ALGOS受信不能状態)

ID108912 かめりや
(福津市命名)
(2012.11.27ALGOS受信不能状態)

ID108913 さん(仮称)
(2012.9.22ALGOS受信不能状態)

ID108914 よん(仮称)
(2013.1.20ALGOS受信不能状態)
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計画の趣旨及び目的


ウミガメ類は特定の砂浜に強く固執し、同じ砂浜に繰り返し上陸して産卵することが知られている。この固執性に対する解釈として「母浜回帰説」がある。しかし、これまで行われてきたミトコンドリアDNAの解析や子ガメの標識放流などでは、母浜回帰説を実証するに十分な証拠は得られていないどころか、産卵に成功した経験によっても固執性が生じている可能性が示唆されている。本研究はウミガメ類の産卵地に対する固執性の形成のメカニズムを解明することを目的とする。また、ウミガメの海洋における行動は未解明であり、衛星送信機を装着することで、放流後の索餌回遊と産卵回帰の際の接岸過程を明らかにすることを目的とする。



計画の概要


屋久島で上陸したウミガメを5頭捕獲し、福津市の浜にて保護し、産卵させる。産卵期が終了した後、全ての個体に送信機と標識を装着し、放流する。その後の行動を送信機によって追跡する他、来年度以降どこの砂浜で産卵するかを調べる。また卵については福津市庁舎等において人工ふ化を行い、勝浦海岸等に移植し、地元団体に管理を依頼する。ふ化後は脱出時に捕獲しPITタグを装着して速やかに海に帰す。



2012年の経緯


5月26日 屋久島いなか浜にてアカウミガメ3頭捕獲(未産卵、甲長87cm以上)
5月28日 福津市の浜にて送信機(3機)装着後放流
6月11日 福津市の浜にて1頭産卵(卵:139個)→人工ふ化器へ
6月15日 屋久島いなか浜にてアカウミガメ2頭捕獲
6月17日 福津市の海浜にて送信機装着(2機)後、放流
7月17日 福津市の浜にて1頭産卵(卵:109個)→勝浦海岸へ移植
8月12日 福津市の海岸にて送信機を装着し保護していたアカウミガメ5個体を放流し回遊ルートを追跡
9月3日  子ガメPITタグ装着(6月11日と7月17日に産卵し、ふ化した75個体のうち60個体に装着
       同日放流
9月5日   勝浦海岸へ移植した卵から1個体ふ化→放流
9月7日   勝浦海岸へ移植した卵から3個体ふ化→放流
9月12日 勝浦海岸にてふ化調査を実施(109個の内訳)
       ふ化卵殻数:82個、ふ化していない卵殻数:27個
       ふ化率:75.2%、帰海率:75.2%、脱出成功率:100%
      

2013年の送信機による衛星追跡


2012年、送信機を装着した5個体の内、4個体が何らかの影響により、受信が途絶え、受信No.108911の個体(花子)のみが2013年12月10日に送信機の稼働を確認したがはっきりとした位置データは取れていない。

・受信No.108910の個体(桂姫)は、放流後、対馬海峡東水道を通過し、日本海の竹島周辺を索餌回遊していたが、その後対
 馬海峡を南下して2012年11月21日に奄美大島の西約370km、北緯28°46′9″、東経125°57′31″の海域を最後に受
 信が途絶えてしまった。

・受信No.108911の個体(花子)は、対馬と韓国の間、対馬海峡西水道を2012年8月下旬に日本海側に抜けた後、東シナ海に
 南下し、2013年4月2日頃に屋久島の西4kmほどに接岸してきた。産卵のために上陸の準備をしているかと思われたが、急
 に奄美大島の北の海域に南下し、屋久島から離れて行った。2013年11月27日に、屋久島の西約340km、 
 北緯30°25′ 35″、東経127°29′09″で受信した。その後、送信はしているが良好な位置データは取れていない。海
 水温は20~21度でアカウミガメが索餌回遊するには十分な海水温である。

・受信No.108912の個体(かめりや)は、放流後、西へ回遊し、8月25日には済州島のテジョンの沖合50km周辺の海域を索餌
 回遊した後、南下を始め、2012年11月27日には徳之島の西約200km、北緯27°44′13″、東経126°39′36″を最後に
 受信が途絶えてしまった。

・受信No.108913の個体は、対馬海峡東水道を回遊し、日本海に向った。2012年9月初旬には韓国のヨンドクの沖合100km
 周辺海域を索餌回遊し、9月20日過ぎには対馬の東30km沖合に南下した。しかし、2012年9月22日に北緯34°32′24″、
 東経129°44′52″を最後に受信が途絶えてしまった。

・受信No.108914の個体は、東シナ海を南下して沖縄と中国大陸の中間海域を索餌回遊していたが、2013年1月20日に沖縄
 の西約500km、北緯26°53′49″、東経123°36′32″を最後に受信が途絶えてしまった。

1年目で回帰してくるウミガメは確認されず、受信No.108911の個体(花子)が一時屋久島への接岸が見られたが産卵のための上陸はなくそのまま索餌回遊を続けた。2年目の回帰の確率が高く、2014年以降の回帰が期待される。


2014年の送信機装着個体の回帰


2012年に送信機を装着した5個体の内、4個体が永田地区の浜に回帰した。
上陸・産卵状況及び形態は以下の通りである。
受信No.108911(花子)
上陸場所 上陸回数 産卵回数
いなか浜 3回 2回
前   浜 4回 1回


大きさ(2014.5.6)
甲長
(cm)
甲幅
(cm)
87.9 71.6

   
2014年5月25日、受信不能の送信機を
装着したままいなか浜に上陸した花子
受信No.108910(桂姫)
上陸場所 上陸回数 産卵回数
いなか浜 1回 1回
前   浜 4回 2回


大きさ(2014.6.30)
甲長
(cm)
甲幅
(cm)
88.6 69.8

受信No.108912(かめりや)
上陸場所 上陸回数 産卵回数
前   浜 6回 1回
四ツ瀬浜 1回 確認されず


大きさ(2014.5.25)
甲長
(cm)
甲幅
(cm)
90.5 68.5


   
      受信不能の送信機
受信No.108913
上陸場所 上陸回数 産卵回数
いなか浜 1回 確認されず
前   浜 8回 2回
四ツ瀬浜 2回 1回


大きさ(2014.6.29)
甲長
(cm)
甲幅
(cm)
91.7 66.0

2年目で回帰したアカウミガメが5個体の内、4個体確認され、成体のアカウミガメに関しては最初に産卵するために上陸した浜に固執する傾向が見られた。
2015年以降の回帰が確認された場合、これら4個体は永田地区の浜へ固執していると考えられる。


実施主体    NPO法人屋久島うみがめ館
共同研究者   鹿児島大学水産学部 教授 西 隆一郎
協力団体    福津市、勝浦うみがめ塾、ウミガメ特捜隊
           宗像漁業共同組合津屋崎支所
           恋の浦ガーデン
           NPO法人おおいた環境保全フォーラム  



2015年の東京大学との共同研究


屋久島いなか浜と前浜にてアカウミガメ2頭捕獲(未産卵、甲長84cm以下)
送信機(2機:受信No.149964、受信No.149965)装着後、大分県間越海岸より放流

輸送の際はウミガメに配慮し、高温にならないよう、水を入れた水槽にウミガメを入れ、蓋を閉め輸送した。

結果
放流後、送信機の不備により、電波を発信することがなく、受信することもなかった。
放流してから約1ヶ月後、受信No.149964(P型タグY5310)の個体は7月10日0時頃永田地区(前浜)に上陸して0時55分頃産卵、1時55分以前には帰海していた。1時間30分ほど浜にいたが電波は送信されず、受信もされなかった。
この個体は放流後36日かけて永田地区の海浜に戻ってきた。永田地区の浜に固執していたと考えられた。送信機を回収しようとしたが、しっかりと固定していたために回収できなかった。
受信No.149965(P型タグY4882)の個体からは残念ながら情報は何も得ることはできなかった。

考察
今回は送信機の不備により、回遊経路は特定できなかったが、1個体が永田地区の海浜(前浜)に戻って産卵したことにより、最初に上陸した永田地区の海浜(いなか浜)に固執せず、その周辺の砂浜を形成している海浜に固執している可能性が非常に高いことが示唆された。

共同研究者 東京大学 空間情報科学研究センター 工藤 宏美
協力団体  NPO法人おおいた環境保全フォーラム

※2015年の研究はJSPS科研費 15K20920の助成を受けたものです


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