ザブーン、海の中に放り込まれた花子は空気のあわ立つ中で一瞬、鯨の噴出す潮で遊んだ記憶がよみがえりました。それは、それは楽しい記憶でした。
 現実は海の中、青い、青いコバルトブルーの海でした。花子は我に帰り、一目散に岩陰に泳いでいきました。
「無事に大きくなって日本に帰れよ! 2度とつかまるなよ!」
ビリーさんはそう話して船を港に向けました。ビリーさんはこれまで数多くのアカウミガメを助け、標識をつけて海に帰していました。
 ドドドー、船は遠ざかっていきました。花子は呼吸をするために恐る恐る岩陰から出て海面に顔を出しました。見えるのはメキシコの青い空でした。
 再び海の中にもぐってみると仲間のウミガメが周りに集まってきていました。
「花子ちゃんよかったネ、もう会えないかと思っていた」
と、のぞみちゃんがうれしそうに話しかけました。他の仲間もうれしそうです。もう決して網のあるところへ近づかないと花子は思いました。
 それから何年たったでしょうか? エビを一杯食べた花子はもう立派な娘に育っていました。他の仲間もそうです。さとる君は立派な尾が伸びていました。男の子と女の子の違いがはっきり出ていたのです。他の違いは花子より立派な爪があり、お腹の甲羅はへこんでいました。
 花子達は何かむずむずと不安定な落ち着かない気持ちが出てき始めました。
「のぞみちゃん、何処かに行きたい気持ちがでてこない?」
花子はのぞみちゃんに話しかけました。
「そうだネ 何かむずむずするネ」
他の仲間も同じような気持ちでした。花子はどこかに行きたい気持ちがますます強まってきました。

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うみがめ花子



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その37